[読書][Kindle]『獄中記』(佐藤優)

Hitoshi Arakawa | 2024/12/21 Sat 04:33

Amazon.co.jp: 獄中記 (岩波現代文庫) eBook : 佐藤 優: Kindleストア
https://amzn.to/41oQcG6

非常に面白かった。いつも寝る前は Kindle で読書時間をしているが、毎晩どんどん読み進めていた。

評価:5/5

以下読書メモ。

Location: 62
モスクワで十分積んだ尾行を振り切る経験がこんなときに役に立つとは夢にも思わなかった。

Location: 79
知識人にとって、文書を綴ることを禁止されるというのは何よりの苦痛だ。

Location: 111
ユーモアこそがファシズムに抵抗する最大の武器だということがわかった[。]

Location: 185
官僚になる学生たちは要領がよく、知的水準もそこそこ高いのですが、役所につとめて数年経つと組織の論理でしか物事を考えなくなってしまいます。ただ佐藤君ならば、役所勤めを無難にこなしながら自分の道を切りひらいていくことができるかもしれません。もし外務省にいて自由に物事が考えられなくなっていると感じるようになれば、躊躇なく辞めて、京都にもどってくればいいです[。]

Location: 247
もう一度、人間としての原点に立ち返って考えてみる必要があろう。

Location: 269
あまり関心の範囲を拡大しないように注意する。

Location: 302
面会時の口頭説明では要領を得ない点がありますので、文書で御説明申し上げたいと考えております。

Location: 358
問題は何故にそのような価値観の転換がなされるかということである。

Location: 360
重要なことは、このような価値転換の背景にあるパラダイム(位相)の転換を見極めることである。

Location: 368
語学の勉強は記憶力の強化にも繫がるので、所与の条件下でよい「玩具」ができたと喜んでいます。

Location: 377
『現代独和辞典』をとりあえず通読し、神学・哲学用語を抜き出しておこう。辞典を読むなどという優雅なことができるのも拘置所にいる特権である。外にいるときは忙しすぎて語学に腰を据えて取り組むことができなかった。

Location: 412
本の数が少ないという制約条件を最大限有利にする方策を考えるべきであろう。

Location: 424
ピンチはチャンスでもある。所与の条件を自己に有利にすべく思考を転換する必要がある。

Location: 428
今は拘置所で勉強できる内容のみに知的関心を限定することが賢明かつ得策である。

Location: 449
本当に苦しい状況の中でこそ、愛情の真価が問われるのだと思います。

Location: 474
国家が国家として存続するためには、経済合理性を超えた原理が必要になります。

Location: 505
平等社会日本の基礎体力低下(少子化、学力低下、経済不況等)

Location: 536
小学校のときから体育は嫌いだった。

Location: 563
人間的思いやりをもち、憎悪や嫉妬に基づいた人間性崩壊を防ぐことです。

Location: 603
人間には生産的活動に喜びを見出すという本性があるのだと思います。

Location: 640
田舎暮らしは図書館も本屋もないので嫌だ。東京は避けたい。できることならば、京都でひっそりと余生を送りたい。

Location: 658
これから私も忙しくなりそうです。しかし、人間としての尊厳を失わずに、また、それと同時に与えられた環境を学習のために最大限活用したいと思っています。

Location: 665
辞書については「大は小を兼ねず」で、小型辞典にはそれなりの便利さがあるのですが、仕方ありません。

Location: 739
最新の臨床心理学の成果をもってしても「ある人が何かを考えることを外部から禁止することはできない」のですから、いくら私を追及しても徒労に終わるだけです。取り調べには淡々と応じて、それ以外の時間を学習に振り向け、勾留期間を人生にとって無駄な時間にしないというのが、現在私がとっている戦術です。

Location: 783
余計なことを考えないためにも熱中できることを作る。

Location: 974
小説や実用書籍の遊び本を全然読みたくならない私の心理状態もちょっと不思議です。おそらく、「拘置所は学習と鍛錬の場」と自分で決めてしまったからでしょう。

Location: 1,002
囚人になると欲望は小さくなるのですが、文房具と食品に対する執着は強くなります。

Location: 1,043
誠意をもって説明しておけば、「思考する世論」は、いますぐにではないとしても、必ず一定の理解を示すと思います。

Location: 1,101
やはり春夏秋冬を経験しないと、外に出てから東京拘置所暮らしについて十分な土産話をできないので、ここは是非長期勾留コースで頑張りたいと思います。

Location: 1,240
集中力を養う必要がある。読書にしても語学にしても余計なことを考えずに対象に集中する訓練をする。

Location: 1,246
中世では「牢は社会に害をなした人間を閉じこめるというよりは、本来は、犯人を追跡者の実力行使(復讐)からしばらくの間、守るという面をもっていた」( 32 頁) ことが指摘されています。

Location: 1,265
独房は語学学習のためには最適の場だと思います。

Location: 1,298
私は拘置所生活ができ、本当によかったと思っています。この経験をして、見えなかったものが見えてきただけでも大きな成果です。

Location: 1,322
シュバイツアー[一八七五─一九六五]が神学者から医師に転換したのが四〇代はじめ、夏目漱石が学者から小説家に転身したのが四〇歳であったことを考えるならば、私にもまだまだ人生を楽しむ可能性があると思っています。

Location: 1,346
拘置所は社会から縁を切られた者にとっての「自由」の場であると捉えるのが妥当で、再び社会に復縁するときに備えて、この時間を最大限効率的に活用することが自分のためになると思います。

Location: 1,354
夏目漱石が『吾輩は猫である』の中で、猫に「日本人はなぜすぐに謝るのか。それはほんとうは悪いと思っておらず、謝れば許してもらえると甘えているからだ」と言わせています。

Location: 1,360
国策捜査は「引っかけ」で始まりますが、「構造問題には手をつけない」という狭い回廊の中で、対象者を徹底的に痛めつけるという形で行われるという「ゲームのルール」が存在しているように思えてなりません。

Location: 1,410
これは虚構によって塗り固められた世界です。

Location: 1,422
せっかく暑い夏が過ぎ、気候もよくなっているので、仮に「もう出ていってくれ」と言われても「是非、拘置所の中でもう少し勉強する機会を与えてほしい」とお願いしようと思っています。検察も私に対しては「保釈カード」が全然効果がないのに困っているようです。

Location: 1,448
「毎日が日曜日」のようなこの生活を思いっきり楽しんでいます。このような状況で危険なのは、関心領域が散漫になり、体系的な知識が身に付かなくなることです。知的好奇心にブレーキをかけ、語学、歴史、哲学等の普段、外では時間がかかるので、敬遠しがちな面倒な事象を記憶に精確に定着させる作業を重視したいと思っています。

Location: 1,501
朝から晩まで机に向かう世界は私の「好きなこと」です。

Location: 1,577
実は、日本の外交官が、ロシアで(恐らくはヨーロッパ全域で)良好な人脈を構築できない要因の一つが、教養の不足にあります。

Location: 1,601
それにしてもイライラすることが全然なくなった。性格が変化したからだろうか。それとも環境のせいだろうか。

Location: 1,655
外交官を含め日本人のほとんどが「国のために」という価値を軽視するようになってしまったが、そのような状況が続くと日本は弱体化してしまい日本人一人ひとりが不幸になるという危惧が、ソ連の崩壊過程とその後のロシア、ユーラシア地域の混乱を体験する中で、私にとって、強烈な問題意識になりました。

Location: 1,662
国家権力の強い意志をもってすれば、任意の人物を犯罪者に仕立てることは可能であるということを、私は今回の事件を通じて痛感しました。これは暴力そのものです。今後の人生では、私はこのような暴力を行使する側にも、暴力を加えられる側にもいたくありません。

Location: 1,665
「私の世界」で、ひっそり交遊も本当に親しい友人だけに限り、自己の知的関心を満たすようにしたいと思います。「高等遊民」の世界が理想です。

Location: 1,834
私は、人を殺したのでもなければ、他人の物を盗んだのでもありません。国益のために仕事をしてきたことが「犯罪」とされているわけですから、私としてはきちんと筋を通していけばよいと淡々としてアプローチを続けていこうと思っています。

Location: 2,003
思索をする場として、独房というのはたいへんによい環境です。一種独特の緊張が知的営為に対して明らかに肯定的影響を与えます。

Location: 2,017
「今となって考えてみれば……」これが検察の切り口である。今となって考えてみれば問題があるならば、当時も問題を感じていたはずであるという形で違法性認識ヘの道を作る。要するに物語を再編させるわけである。しかし、現在の視座で過去の物語を再編する権利は誰にもない。自らがコミットしたあの時代に対する責任を放棄することになる。一度、このような踏み越えをすると永遠に「物語」の再編におびえなくてはならない。権力の圧力による自己の過去の再編を、インテリは受け入れるべきではない。

Location: 2,041
四〇〇字詰め原稿用紙換算で二八〇〇枚になる大著です。

Location: 2,081
私の中では、この二つのテーマがどこかで繫がっているということになります。恐らく、「人間とは何か」という問題意識で繫がっているのだと思います。

Location: 2,090
難しいテーマを扱うときは、思いつきをそのまま文字にはせず、まず、筆ペンでポイントだけを箇条書きにし、一晩寝かせてから翌日文章にすることにしています。一晩寝かしても崩れてしまわない内容は単なる思いつきではなく、自分の「考え」なのだと思っています。

Location: 2,093
囚人になって、書くこと、読むことが、人間が人間として生きていくためにどれだけ重要かということを実感しました。この経験は私の今後の人生においてもプラスに作用することと思います。

Location: 2,171
裁判長は、「自分が世界でいちばん頭がよく、正しい」と考えている田舎の小学校の校長先生タイプ。

Location: 2,180
人間にとっては、何もやることがないというのがいちばん辛いのだと思います。幸い、私には獄中でもやることがたくさんあります。

Location: 2,212
帝王学では、あえて責任感の欠如した人物を作ります。

Location: 2,244
テロリストの自己意識の世界では、攻めているのではなく、守っているのです。

Location: 2,272
私は知識人というのは、自己の利害関係がどのようなものであるかを認識した上で(つまり、自分には偏見があるということを認めた上で)、自己の置かれた状況をできるだけ突き放してみることのできる人間だと考えています。この訓練が一般教養であり哲学なのだと思います。この訓練を欠いて知識や技法だけを身に付けると、自分の世界の切り口からしか他の世界を見ることができなくなってしまいます。

Location: 2,291
その時点で必要であった工作が、後から「庶民の常識」で断罪されるのでは、誰も秘密外交には従事しません。従って、このような「断罪」から秘密工作に従事する外交官を守るのが「政治」の役目なのです。

Location: 2,296
「物差し」が違うので、共通の言葉を見いだすことは難しいです。そうなるとどちらの「物差し」を使うかということですべては決まってきます。

Location: 2,365
ヘーゲルの法哲学からすると、「犯罪者は法秩序に違反していない」という奇妙な結論になります。このロジックは、市民が犯罪人として摘発され、裁判にかけられ、刑を受けることによって犯罪者と国家の間に和解がなされるわけであり、従って法(秩序)は維持されているということです。ヘーゲルによれば、法(秩序)に対する違反は、犯罪者によってなされるのではなく、国家が本来犯罪として裁かなくてはならない人物を放置しておくことによって生じるのです。

Location: 2,403
外務省がこのような弱さを克服するためには、制度的な手直しだけでは駄目です。一人ひとりの能力を向上させ、自信をつけさせるしかないというのが私の見解です。

Location: 2,405
恐らく、日本のエリートはひ弱に育っているため、「失敗する」「評価されない」「競争に敗れる」ということに不必要な恐怖を感じており、自ら作った温室の中で、狭い集団だけで通用する価値観のヒエラルヒーの中で、少なくとも自分はそのヒエラルヒーの上層部にいるという自覚により生きていくという習性が身に付いているのだと思います。

Location: 2,426
私が見るところ検察官にも「仕事中毒者」は多いです。この類の人種は上司の意向を過剰忖度して事件を作る傾向があります。

Location: 2,437
チェコ人というのはとても不思議な人々で、民族的にはスラブ人なのでロシア人のことがよくわかるとともに、文化的には西欧圏に属するので、ドイツ、フランス、イギリスなどの内在的論理も体感としてわかります。

Location: 2,456
ロシア、ドイツ、オーストリア、ポーランド、ハンガリーという大国に囲まれたチェコが国家として生き残るためには、情報、知識を最大限に吸収し、いろいろな「仕掛け」が不可欠、つまり必要がそのようなスタイルを作るのでしょう。

Location: 2,478
意思決定は多数決ではなくコンセンサス(満場一致)方式をとります。

Location: 2,598
日本の外交官は「不作為によって失われる国益」に関して鈍感です。

Location: 2,620
人間の「知」は、その時代、時代に対応する流行の衣装をもっていますが、その身体はそれほど変化しないというのが私の仮説です。

Location: 2,701
日本ではエリートというと、何か嫌な響きがありますが、ヨーロッパ、ロシアではごく普通の、価値中立的な言葉です。

Location: 2,711
理由は簡単です、ある時点から勉強しなくなってしまうからです。

Location: 2,762
諜報の世界では、正確な知識を持って活動しないと工作が失敗する可能性が高いので、諜報機関員はいずれも知(真理)に対しては畏敬の念を抱いています。

Location: 2,784
共産党は現在の日本のシステムを覆すことを綱領に明記した革命政党です。

Location: 2,803
中世では読むというのは必ず声を出して読むことを意味します。いわゆる目(黙)読は「見る」と言って、読書のカテゴリーには含まれていないのです。声を出す行為によって書物に魂が入っていくのでしょう。

Location: 2,857
民族とは、個人と人類の中間にある共同体を観念します。

Location: 2,909
少しでもまじめに神学を勉強した者なら誰もが、歴史上、クリスマスが一二月二五日であった可能性はほぼありえず、古代ローマの冬至祭がキリスト教導入とともに変形したものだということを知っています。逆に、冬至のような自然現象と結びついているからこそ、日本のような非キリスト教社会にもクリスマスが根付くのでしょう。

Location: 3,153
キリスト教徒として国家は必要悪にすぎず、政府に積極的に奉仕するという作業は本来、他の人々に任せるべきであり、自覚的キリスト教徒としては、政府の外側から国家とは位相を異にする価値観に基づいて社会的貢献をなすべきではなかったのか。

Location: 3,162
人は自己の能力を他者のために用いるべきであるというのが自覚的キリスト教徒、知識人としての大前提ではないか。

Location: 3,176
この場合、「正しい」ことと「成功すること」はほぼ同義になってきます。すなわち、日常的には「正しい選択をしたから成功した」という認識を持ちますが、実は「成功した場合の選択を正しいと名づけている」にすぎないのかもしれません。

Location: 3,189
国策捜査の対象というのは、あくまでも政治エリートもしくは経済エリートです。支配層内部での抗争の面が大きいのです。国策捜査の問題点は、検察(そして裁判所)が自らの政治性に無自覚なところにあるように私には思えてなりません。

Location: 3,277
上司におもねる必要はないが、マサツを引き起こす必要は全くない。

Location: 3,278
大使館での人間関係は近くなりすぎると必ず後でトラブルが生じる。適切な距離を維持することが、仕事を円滑に進める上で適当と思う。

Location: 3,279
わかりが遅いのは悪いことではない。人間でも、政策でも、本当に理解し、納得できるまでは信じるな。

Location: 3,311
裁判官や検察等、現下の状況では僕よりも強い者に「お願い」をしない。ソ連時代、ロシアの反体制インテリは「強い者にお願いをすると、その人間は内面から崩壊していく」と考えたが、その通りだと思う。

Location: 3,319
僕は何事かを決めるまではいろいろと考えるが、一度決断したらまず軌道修正はしないことは、君もよくわかっているので、この方針で進んでいく。

Location: 3,427
人生をトータルで見た場合、鈴木代議士は国策捜査の対象となりこのような理不尽な取り扱いを受けているが、人間的優しさを全く示すことができない権力闘争のみに明け暮れしたよりも、現在のシナリオの方が、結局のところよかったのかもしれない。

Location: 3,525
獄中で、ハーバーマス、廣松渉、ゲルナー、宇野弘蔵等に強く惹かれるのも、彼らの論理構成が一種の「役割理論」になっているからです。要するに世界とは巨大な劇場であり、ひとりひとりには何らかの役柄が与えられており、それを演じているという考え方です。従って、役者が心の中で何を考えていようと、その与えられた役柄のコンテクストの中での発信・行動を評価される他はないということになります。

Location: 3,557
世間的価値観に関心がなくなってしまうのです。ある意味での高等遊民化です。

Location: 3,562
外務省は内向きで、非常に嫌な組織になりつつあると僕は感じている。自己保身、言い訳、責任転嫁、密告が日常的に行われるようになっていることと思う。

Location: 3,608
忙しくなると、自分のことしか見えなくなる上司、同僚が多くなるので、とくに健康については自分で管理するほかなくなる。「健康管理も実力のうち」ということになるので、少しでも調子が悪くなったら休みを取ることである。

Location: 3,610
外務省の人間、残念ながら幹部クラスでも、忙しくなると「天動説」が強まり、自分の仕事がいちばん重要に見えてくる。このような「天動説」は周囲に伝染するので、よく注意した方がよい。

Location: 3,644
外務省は人材を育成するシステムが整っていない。「幸運」が大きく作用する。もっとも、偶然の機会をそのような「幸運」に転換できるかどうかがその人間の能力であろう。

Location: 3,664
日本の伝統では、修士号以上をもっていないとアカデミズムへの入場券が得られない。逆に修士号をもっていれば、論文の発表も簡単にでき、目に見える形で業績をつくることができる。

Location: 3,730
それを説得的に説明するとなるとなかなか難しいのです。

Location: 3,800
少数派に対する弾圧というのは、国家が国民の意向に反して行うのではなく、国家が国民の声(実際はメディアによって煽られ、「作られた世論」)に応えて行うのですが、興奮しやすい世論、それに迎合する治安当局という構造は、国家体制が弱体化していることを示すものです。嫌な時代になってきました。

Location: 3,823
神学部の学生は、旧約聖書、新約聖書のいずれかにより惹かれるのですが、私の場合は圧倒的に新約聖書のファンでした。キリスト教神学の世界では過去五〇年くらいは旧約聖書ブームで、ユダヤ教とキリスト教の連続性を強調する傾向が人気があります(恐らくは第二次世界大戦中、大多数のキリスト教徒がユダヤ人弾圧を支持もしくは黙認したことに対する自己批判的意味合いがある)、私はこのような流行に反して、学問的には新約聖書に対してより強い関心を持っていました。

Location: 3,827
今回の獄中生活を通じて、理不尽な状況を理解するために、いかに旧約聖書に書かれているユダヤ人の知恵が役に立つかということを実感しました。

Location: 3,838
私が日本の政治家、外交官に対して何を物足りなく感じているかがわかってきました。自らの発した言葉に対して責任を負わない人が多すぎるのです。

Location: 3,942
縁起とは、全ての出来事は原因と結果からなっているので、現在起きていることには必ず原因があり、それを変えることはできないというドクトリンで、通常は「諦め」の論理になる。

Location: 3,948
しかし、このような理解は縁起観の半分に過ぎない。/縁起観によれば、確かに現在生じていることからは逃れられないが、逆に将来のことは、現在の行動によって規定されるのである。/今、おかしなことをすると、将来その大きなツケが回ってくるとの考え方である。将来のことを考えると、縁起観は希望の原理ともなるのである。

Location: 3,960
「二島返還による平和条約」と「二島先行返還による中間条約」の区別がつかないような世論にジャコウネコとネコを区別しろと言っても無理な話だと思う。

Location: 3,999
肉体的拷問には耐えられても、考えられなくなる可能性への恐怖に耐えられなかったというのはいかにも知識人らしい。

Location: 4,062
結果を求めず、官僚組織の中での「椅子取りゲーム」に目標を置くような人生は、私はつまらないと思っていましたが、どうも外務省のように成果が数字で出ない官庁は、外部からの刺激がないと、「椅子取りゲーム」に収斂していくような文化があります。

Location: 4,065
現在の外務省は非常に内向きになり、職員が物事を深く考えず、また勉強もしなくなっていると思います。

Location: 4,067
民間の「ロビイスト」(日本の場合、ジャーナリストがこの役割を果たすことが多い)

Location: 4,093
人間は二〇歳前後で形成された人柄というのはなかなか変わらないと思う。それから、物事の基本的考え方というのも、二〇歳代で基本的方向性が定まり、それがだいたい結晶化していくということではないのかと思う。

Location: 4,151
マルクスの研究者としての姿勢(大学に籍を置かず、現実の労働現場の視察には全く関心を持たず、書物の上の知識を重視し、先行思想に対する批判的コメンタリーを作っていくという手法)は、タルムード(ユダヤ教伝承集)学者そのものである。

Location: 4,168
物事を考察するときに方法論は死活的に重要である。方法論が異なると、同じ出来事が全く異なった姿に見えてくる。しかし、新聞記者でも政治学者でも方法論についてはほとんど無自覚であるというのが現状ではないかと思う。

Location: 4,269
僕の関心は、関係者の発言をできるだけきちんと記録に残しておくことなので、この点については弁護団の先生方にもできるだけ強く対応してくれとお願いしている。

Location: 4,280
(理論家が現実の政治を運営するとだいたいロクな結果をもたらさない。僕の理解では、理論とは、あえて極端な事態を想定して打ち立てるものだから、現実にストレートに適用しようとする発想自体が誤っている)

Location: 4,292
地球生態系の現状を考えるならば、持続的経済成長を前提とした政策は危険だと思う。

Location: 4,364
逆に自分自身との闘いになるわけですが、攻撃的にもならず、極端に内省的にもならず、「あたかも何事もなかったかの如く」生活するのが目標です。

Location: 4,425
私は、ターゲットを「思考する世論」に絞るならば、そこそこの成果を上げることができると思います。

Location: 4,426
一級の宣伝工作の場合、「答え」(こっちにとって都合のよいシナリオ)をこちらから提示してはなりません。こちらからは、断片だけを提供し、それにより受け手が自ら組み立てたシナリオがわれわれのシナリオに「偶然」一致するという方向にうまく誘導することが適切です。人間は他者から押し付けられたものよりも、自ら組み立てたものに強い愛着を感じるという本性があるからです。

Location: 4,440
かなり面白い形で問題提起を行うことができた。外務省を刺激したことは間違いない。もっともあの連中にたいした事はできないので心配するには及ばない。

Location: 4,452
哲学や神学の場合(恐らくは他の人文・社会科学系の創造的な著述の場合も)、コンピューターではなく、紙に文章を綴っていくことで、思考が活性化していく面がある。簡単に修正ができないという制約条件は知的真剣勝負に向いている。

Location: 4,499
何事も最初の第一歩が難しいのであり、この第一歩さえ踏み出せば、あとはだいたい形がついてくると思います。

Location: 4,505
人間は一人で生きていることはできませんし、食べていくためには何らかの「組織」と繫がりを持たなくてはなりません。しかし、それが生活の中心にならないような組み立てをしなくてはなりません。これはなかなか面倒な課題です。

Location: 4,553
人間には、よい意味でも、悪い意味でもやり直しがあります。

Location: 4,577
学術的水準を崩さず、しかもこれだけわかりやすく書けるということは、著者が内容を実によく理解しているということだ。

Location: 4,649
ひじょうに特殊であるのは、北方四島に日本人が一人も住んでいないにもかかわらず、失地回復運動が続いているからである。

Location: 4,652
アカデミックに見れば、北方領土返還運動は、草の根の国民からの声、シンボルを活用するが、基本的には国家による上からの運動である。

Location: 4,668
ナショナリズムには、「自民族の受けた痛みについては敏感だが、他民族に与えた痛みには鈍感である」という非合理的な認識構造が存在する。過去の歴史において民族間の「被害」「加害」の関係は錯綜しているので、その中からどの要素を繫ぎ合わせて、「物語」を形成するかによって、全く異なる歴史が生まれてくるのである。

Location: 4,827
自分が嫌いな倫理を自らの行動規範にしてはならない。

Location: 4,828
それでは僕にいちばんフィットした考え方とは何なのだろうか? これがいちばん大きな課題だ。答えを出すには時間がかかる。

Location: 4,853
ロシア人は、本質をつかまえることは上手であるが、それをロゴス化することが苦手である。

Location: 4,878
裁判所は有罪という結論をつけていることは明白なのであるが、それはそれとして、こちら側の主張をきちんと記録に残しておくということは、また、別の位相の闘いである。

Location: 4,887
神学プロパーの勉強をした人たち以外に、「汝の敵を愛せ」という言葉ほど誤解されてきたイエスの言葉はない。まず、誰でも愛せということではなく、味方と敵をきちんと分けて、敵を愛せということである。/政治とは、味方と敵を分けるところから始まる。

Location: 4,892
憎しみの論理は人の眼を曇らせる。

Location: 4,972
他者の哲学、思想を素直に理解することを試みた上で、自分の頭で再構成していくという知識人が少なくなっていることが、何となく日本が知的にも元気でなくなっている原因だと思う。

Location: 5,112
自分の力で友の窮地を救えないことがわかっている場合、本当の勇気とは怖くても見届けることだと思う。

Location: 5,134
獄中生活一年を経た頃から博士号や大学への就職に対する熱意が失せてきた。その分、きちんとした本を作るという意欲が強まっている。

Location: 5,136
二、三年経って何の見込みも立たなければ、外国に移住する。そこで全く新しい生活を始めようと思っている。

Location: 5,168
丸暗記でなく、筋をよくつかむことが肝要です。

Location: 5,170
①弁護人の質問を最後までよく聞く。/②イエス、ノーで問われている質問については、イエス、ノーを言った後で説明を始める。/③書き言葉にしたとき乱れないように発言する。長い発言になるときは、「記憶を整理する」と言って、時間を稼ぎ、きちんと頭の中で文を作る。/④早口にならないようにする。/⑤わかりやすい言葉を選ぶ。/⑥「たいへん」「ひじょうに」という形容詞を多発しない(書き言葉になった場合、説得力が薄れる)。

Location: 5,179
仕事に対しては、どのような状況でも前向きに取り組むことが、自分のためになると思う。もちろん、仕事に意味がないとか、上司の指示がおかしいと確信する時は、対象から少し距離を置くことは、自分自身のためにも、究極的には国益のためにも貢献する。しかし、毎日の担当部分の時間をとられる仕事に対してひねくれた態度をとると、人間性が曲がってくる。その結果、ひねくれた人生を送ることになり、それでは幸せを摑むことはできないと思う。そのときは転身を図った方がよい。

Location: 5,247
間抜けた兵隊がいれば、戦争でいつか弾に当たるだけだが、隊長が間抜けだと部隊が全滅する。また、一人の人間によって勝つことはできないが、一人の人間によって戦争に負けることはよくある。

Location: 5,249
現状では、目をよく見開いて、状況をよく見ておくことだ。いつか日本外交のためにあなたの力が必要になるときがある。そのときまで、無駄なエネルギーを使わずに、力を蓄えておくことだ。

Location: 5,257
何か日本社会、外務省であれ大学であれ閉ざされた社会の中での本質と関係のない事柄に煩わされるのが面倒に感じてきた。

Location: 5,307
ます。そもそも日本は「閉ざされた社会」です。特に司法界は「閉ざされた社会」です。「閉ざされた社会」の人々は、外部からの眼を気にします。

Location: 5,322
外務省でいつも不思議に思ったのは、耐性が弱くかつ努力することのできない人間がなぜこんなにも多いのかということだ。入省後一〇年以上になる外交官で、きちんと勉強を続けている人が何人いるだろうか? 裏返して言うならば、あまり勉強しなくても、語学力が(通訳はもとより)新聞の論説を読めないレベルでも、今の外務省では生き残っていくことができる。しかし、日本外交の基礎体力は確実に弱りつつある。

Location: 5,348
諜報専門家の公募制に反対で、「大学院もしくは大学や研究所の若手を個別にリクルートするのが最も有効だ」という持論をもっていた。

Location: 5,360
生き残るためには知恵がすべてだということで、お父さんは子供教育に全力を尽した。

Location: 5,363
優れた工作員は常に不条理な状況に巻き込まれ、組織から切られる可能性について意識していた。

Location: 5,380
ユダヤ人は、質問に対して積極的な答えをせず、再質問で応答することがほとんどである。これも基本的に歴史を信用しない、人間の言葉を究極的なところで信用しないというユダヤ人的思考の反映と僕は見ている。彼らは徹底的に議論をする中で、議論にならない部分を摑み、それにより相手の人間が信頼できるかどうかを判断する。

Location: 5,397
まず翻訳論の観点で大胆な試みをしている。文法や哲学術語をかなり無視してでも(哲学的訓練を受けていない)普通の人が読んでわかる日本語に訳している。

Location: 5,644
過去数年で、日本人は急速に論理や意味や構造を理解することがひどく不得手になってしまった。

Location: 5,698
この独房が人生の終着駅ではない。同時に五〇〇日強になる獄中生活を僕は最大限有効に使った。

Location: 5,740
僕の場合、ものの見方、考え方は全く変化しない。反省も全くしていないが、検察や拘置所に対する恨みや不満は全くない。「歴史でこういうことは時々あるし、今回は運悪く大当たりだった。あとはこの機会をどうやって自分にとってプラスの機会に転じるか」ということだけを考えている。

Location: 5,746
恐らく僕がこのような気持ちを抱くのは、僕の基本メンタリティーが政治家、行政官はもとより学者でもなく、宗教人なのだからだと思う。

Location: 5,797
この勝負は私の負けだったが、ふと私は、チェスの手なんてどれもみな古くて、誰かが前にやったもののような気がした。われわれの歴史だって、いつか、誰かによって演じられたものなのかもしれない。

Location: 5,831
人間の平均化は危険だ。それを打破するためには、きちんとした学識・教養を身に付け、自分の頭で考える習慣をつけるしかない。

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近代的裁判制度では、証拠が揃えば犯罪の立証のために被告人の自白は必要ない。逆にいくら自白があっても証拠がない場合には無罪とされる。それにもかかわらず、裁判において自白は重視される。なぜか? 自白により、犯罪者自身が自らを断罪することにより、思想を根本的に転換することを確実にし、それを社会にアピールする必要があるからだ。

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ナショナリズムは対外的に自民族中心主義を推し進めるとともに、国内的に異分子の排除に向かう。始めは精神障害者、次に凶悪犯、そして政治的異分子の隔離に例外なく進んでいく。「本を焼く」政権は、その後、必ず「人を焼き殺す」ようになるという法則が働く。

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フーコーによれば、監獄は近代になってから生まれた制度で、近代の軍隊も病院も学校も工場も役所も、構造は監獄と同じだという。

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理解される文章を綴るということは一定の発言力を持つこととほぼ同義である。

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ルカーチが「立場を離れた自由な見解など存在しない」と考えたのは正しい。特に外交交渉において、立場を離れた見解は存在しない。それをいかに客観的に見せるかというのが外交(そして諜報)の技法なのである。

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アカデミックな研究は、ぼんやりとしている時間がないとよいものが生まれてこない。

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ボーンヘッファーは、キリスト教を理解するにあたって「もはや神という作業仮説はいらないのではないか」とも考える。

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上からこの流れで調書を取れという話が来る。それを「ワン」と言ってとってくる奴ばかりが大切にされる。僕は「ワン」という形で仕事をできないんだ[。]

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このゲームは「 双六」に譬えるならば、途中で道はいくつも分かれているが、最後に行きつく「あがり」は全て地獄である。この様な基本認識を私は有している。

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不思議に思われるかもしれないが、検察に対しても、外務省に対しても、怒りとか恨みとかいう感情が私には全く湧かない。「組織とはそんなものだ」というのが率直な感慨である。

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「白黒をはっきりつける」というまさに二項対立そのものである裁判の中で二項対立図式を超克することは至難の業である。

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本来ならばこの様な議論をビールのジョッキを傾けながら行いたいのであるが、いつになったら外に出ることができるのか皆目見当がつかない。

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オヤジは「もし……ならば……してやる」という駆け引きをもっとも嫌う。日本は出来ることをあえてやらず、ロシアを試していると受け止める。/レトリックが重要だ。「お前、噓をつくな」と言うのと「お互い正直にやろう」と言うのでは内容が同じでも受け止めは全く異なってくる[。]

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何をもって「正義」とするかについて国際政治の世界で一義的解答を見出すことは不可能である。

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一見、当事者には理不尽に見えることでも、少し距離を置いて、歴史的見方をすれば、その内的ロジックが見えてくることもある。

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ナショナリズムには、いくつかの非合理的要因がある。例えば、「自国・自民族の受けた痛みは強く感じ、いつまでも忘れないが、他国・他国民に対して与えた痛みについてはあまり強く感じず、またすぐに忘れてしまう」という認識の非対称的構造である。また、「より過激な主張がより正しい」という法則である。国際協調主義と両立する健全な愛国主義と自国中心のナショナリズムの境界線はひじょうに脆い。

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東西冷戦という「大きな物語」が終焉した後、ナショナリズムの危険性をどう制御するかということは、責任感をもった政治家、知識人にとっての最重要課題と思う。

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この見立てについては、現在困難な状況に置かれているが故に私の観測が過度に悲観的になっている可能性も排除されない。

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何もないところから、おかしなことをつかみ取ろうみたいな話が出てきているんじゃないか。

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外交の世界、特にインテリジェンスの世界には、一般常識で通用しないような話はいくらでもある。高級レストランに相手を招待したり、出張のとき、高級ホテルのセミスイートルームに泊まったりするのは、こちらがどれくらい権限をもっているかをさりげなく示す小道具でもある。

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可罰的違法性の観点とは、厳密に言えば法律違反だが、誰もがやっていることなので、あえて刑事罰を与えるには及ばないという意味だ。要するに「お目こぼし」の範囲内ということだ。

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接禁は部分解除することができる。取り調べ担当検察官から「会いたい人がいるならば、接禁を解除するので、遠慮なく言ってくれ」と言われたが、「僕はインドアー派なので特に会いたい人はいません」とていねいにお断りした。検察の思惑が、私と親しいのは誰であるかを接禁解除という餌でチェックし、その人々に揺さぶりをかける可能性があると考えたからだ。

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